遺言執行(遺言内容を実現させていく行為)について
第1 遺言執行者が、まず、行うこと
1 遺言執行者就職の受諾・不受諾の通知
遺言で指定された遺言執行者が、遺言執行者の就職を受諾する場合は、速やかに、受諾の通知をする。
- ・書面で受諾の通知を行う。
- ・送付の事実を明確にするため、送付方法は簡易書留の方がよい。
- ・送付先は、相続人全員、受遺者がいる場合は受遺者、金融機関。
* 遺言執行者に指定されただけでは遺言の執行について何らの権限はない。遺言執行者に就職することについて承諾の意思表示をしたときから、初めて遺言執行者としての任務が開始する(民法1007条)。
2 受益者に対する意思確認
特定遺贈の場合、受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができる(民法 986条1項)。
そこで、特定遺贈は、権利関係を確定させるため以下の定めがある。
第2 管理の着手
1 遺言執行者は、就任と同時に、遺言に定められた範囲内で相続財産に対する管理処分権を持つ。遺言執行者は、速やかに相続人その他の関係者の協力を求めて、執行の対象となる相続財産の存否をはじめとする必要事項(所在、現況など)を調査して相続財産を自己の管理下に移し、適切な保管措置を講ずることが必要となる。
2 具体例
⑴ 不動産権利証をはじめ関係書類、鍵等を預かり使用関係及び使用の実情、賃料の授受などを確認する。
⑵ 預貯金通帳と銀行印を預かり、金融機関に照会し、金額等を調査する。遺言執行者の同意なしには動かせないよう、金融金に通知する。
* 貸金庫遺言執行者以外の人が開閉しないよう設置者に通知する。
第3 財産目録
1 財産目録の作成
⑴ 特定遺贈、特定財産を相続させる遺言の場合具体的に特定された財産についてだけ財産目録を作成する。
⑵ 包括遺贈積極財産のみならず消極財産も調査して財産目録に記載する必要がある。
⑶ 包括的、割合的に相続させる遺言積極財産のみならず消極財産まで記載する必要があるか不明。
2 財産目録の交付
遺言執行者は作成した財産目録を遅滞なく相続人全員に対して交付する(民法1011条)
第4 遺言の執行完了
1 遺言の執行完了とは
遺言の執行が完了したというのは、遺言が実現されたことをいいます。
2 執行完了後の手続
⑴ 任務終了の通知遺言執行者の任務が終了したときは、遺言執行者から遺言者の相続人及び受遺者に通知します。この通知を行う場合、顛末報告書も作成して通知しておく方がよい。
⑵ 保管、管理物の引渡
⑶ 執行の顛末報告書
第5 遺言書の検討
1 遺言の有効性の検討
遺言の執行は、有効な遺言の存在を前提とする。したがって、遺言執行者は、まず遺言の有効性を検討しなければならない。
2 形式が整っているか
遺言は厳格な要式行為である。
したがって、遺言執行者として、その遺言が法の定める方式に違背していないか否かを検討する必要がある。
3 実体上有効か
⑴ 遺言能力
⑵ 公序良俗に反する遺言
* 遺言者と不倫関係にある者に対する包括遺贈が公序良俗に違反するとして争われることがある。
⑶ 成年被後見人の遺言である場合の制限違反
民法966条
⑷ 遺言の後に作られた抵触する内容の遺言の有無
ア 前の遺言と後の遺言で抵触するときは、抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされる(民法1023条1項)
* 公正証書遺言と自筆証書遺言
遺言の方式に従っている場合、新しい日付のものが効力を有する。
公正証書遺言か自筆証書遺言かで決まるものではない。
イ 調査方法
- ・公正証書遺言の存否の検索
- ・相続人に聴き取り
⑸ 遺言後に遺言に抵触する生前処分その他の法律行為がなされた時(民法1023条2項)
例えば、遺言書で「A地を甲に相続させる」としているにもかかわらず、生前にA地を乙に売却している場合。
⑹ 内容が特定できない遺言
遺言内容がその文言から明瞭でない場合であっても、遺言者がその文言によって何を言おうとしてるのか、その真意を探求して当該条項の趣旨を確定すべき努力はすべきであるが、そのような努力をしてもなお内容が特定できない場合。
⑺ 実行不可能な遺言
遺言者が処分し得ない財産を対象として為された遺贈など。
⑻ 法定遺言事項に該当しない
遺言法定遺言事項とされていない事項について遺言しても、法律上の効力はない。
第6 遺贈の執行
1 遺贈の効力の実現
遺贈の目的物の権利移転の効力が生じても、その効力を現実に実現させるためには、
② 保管・管理、引渡等
が必要となる。
これらの遺贈の効力を実現させるための行為が遺言の執行である。
2 不動産の執行
⑴ 管理
- ・登記移転に必要な書類の所在を確認し、すみやかにこれらの書類を保管する。
- ・現地に行き現況を確認し、占有。
- ・使用関係等の状況を把握する。
⑵ 登記手続
ア 特定遺贈登記手続は共同申請の原則が適用され、受遺者を登記権利者、遺言執行者があるときは遺言執行者を登記義務者として共同申請をする。
イ 包括遺贈包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するため(民法900条)、相続の場合と同様に単独申請であるかのように思えるが、判例は、受遺者と遺言執行者とで共同申請をなすべきとしている。
3 預金債権の執行
⑴ 管理
- ・遺言執行者は、預金通帳と届出印を保管する者から、それらの引渡を受ける。
* 貸金庫開扉権限遺言書で、遺言執行者に対して、貸金庫開扉権限を与える旨の記載をしておく方がよい。
⑵ 執行預金を解約して払戻を受けて受遺者に対して現金を引き渡すか、預金名義を受遺者に変更する。
第7 相続させる遺言の執行
1 不動産の執行
⑴ 登記手続
ア 登記名義が被相続人である場合
遺言の執行者は、遺言執行として登記手続をする義務を負うものではない(最判平成7年1月24日)。
イ 登記名義が被相続人以外の第三者にある場合
この場合には、妨害排除請求として、第三者名義の登記を抹消の上、遺言者名義の登記を回復する必要がある(最判平成11年12月16日)。
⑵ 管理引渡義務
遺言執行者があるときでも遺言書に当該不動産の管理及び相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情がない限り、遺言執行者は、当該不動産を管理する義務や、これを相続人に引き渡す義務を負わない(最判平成10年2月27日)。
2 預貯金
相続人全員の協力が得られなければ円滑な遺言の実現が妨げられることになりかねないので、預貯金債権について相続させる遺言がされた場合において、遺言執行者は、その預貯金債権について払戻権限を有する、との裁判例がある。